八十三、兄弟(5)

黄屯長は隊長に向かってひとしきり罵詈ばり雑言ぞうごんを投げつけた後、みんなに向かって筏を放棄して泳いで南岸へ渡るよう指示を出した。我々の着ている筒袖鎧とうしゅうがいは高価なものだが、みんなせっせと脱ぎ捨てて水に入る。こんなものを着たまま泳ぎきるほどの泳力はないからな。俺がよろいを外しながら
「この鎧を魏の連中が拾ったら、加工技術を盗まれちゃいますねえ」
と言ったら、隊長は相変わらず盾をかざしながら呑気に言った。
「見ため上の形はそっくりに真似できても同じ性能は絶対に出せないはずだってさんが言ってたよ。なんか、材料からして違うんだってさ」
「隊長もさっさと脱いで水に入ったほうがいいですよ」
「ヤダ。俺は水になんか入んないよ。もう指揮を放棄したからな。私は隊長ではありません」
「ちょっと! 早くして下さいよ! ほら、新しい油の壺が命中したじゃないですか!」
「じゃあ季寧、さっさと行きな。あばよ!」
言下に、隊長は俺を川の中に蹴落とした。ボコボコボコ……。ああ焦った。危ないよ! 不意打ちやめろ! 溺れるところだっただろ! 必死の形相で筏に這い上がる。アイテッ! 手のひらに矢が当たっちゃったじゃないか、クソッ! 全然勢いのないヘロヘロ矢だったから大したことないけどさ。痛って~。
「隊長も早く筏を下りて下さいよ。グズグズしてると針山みたいになっちゃいますよ!」
「てめえ、まだいやがったのか」
「ほら早く泳いで行きましょうよ。泳げるんでしょう?」
「ま、どうか私のことはお気になさらず。へっへっへ」
「ほら、狙われてる! めっちゃ狙われてる! 狙撃されてますって!」
「ギャハハハハ、楽しいな~。もっと射てもっと射て、ぜんぶ射っちまえ、税金泥棒ども!」
「挑発してどうするんですか!」
こうなったら非常手段だ。俺は隊長の背後に回り込み、一気に脚を捉えて水に落とそうと試みた。と、ひらりとかわされて自分が水に落ちた。むやみに運動神経のいい馬鹿はたちが悪い。みんなして寄ってたかって隊長を落とそうとするが、続々と自分が水に落とされる。

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“八十三、兄弟(5)” に2件のコメントがあります

  1. なんか部隊が壊滅しちゃいそうですね。(汗)

    隊長さん既に数本矢が刺さっててもおかしくないような(汗)

    強弩と火炎瓶は、まるクルルさんの想像なんですね。川への攻撃なら矢と炎のセットは有効でしょうね。

    次回、隊長さんの足元に死体の山がないことを願います。(汗)

    • 現在、部隊は「潰走」という段階に入っていそうですね。
       
      季寧くんは隊長が超能力で矢をよけられるようなことを以前どこかで言っていましたが、どうなんでしょう。
       
      川だとまずは矢と炎ですよね。そこで相手が崩れなければ最後には船に乗り込んで白兵戦になりそうですが。
      そういうのは呉の人たちが得意そうですね。
       
      次回、隊長の足下がどんなことになるか、どうぞお楽しみに……

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