八十四、以食為天(食をもって天となす)(5)

「もしも政治家が軍隊の力を極限まで高めてその力に頼って政治を行おうとするなら、それは政治家が、自分は無能です、って言っちまってるのと同じだな。もしも将帥しょうすいが兵隊の力を極限まで高めてその力に頼って合戦を行おうとするなら、それは将帥が、自分は無能です、って言っちまってるのと同じだよ」
「え、いま張車騎のことを無能だって言ったんですか?」
「いや。張車騎は立派な人だ。その真似をできるような人は今の我が軍にはいねえ。猿真似をしたらとんでもなく間違っちまうってことを言いたいだけだ。張車騎がみんなのびっくりするような精兵を作り出す魔術を持っていたとしても、それは安易に真似していいことじゃねえぜ」
「ふうん。だから隊長はお母さんみたいに過保護なんですね」
「凡人だからな」
再び愉快そうに餅干ピンガンかじる。俺もつられてかじる。サクッ。なんて気持ちの良い食感だろう。美味しい。幸せな味だ。
「これ、まさか死にたくないって目的だけのためにこんなに美味しく作ってるわけじゃないですよね?」
「食べるのは死なないため。美味しく食べるのは生きててよかったと思うため」
なぜかはにかんだように笑っている。気色キショい。
「あのお、前々から疑問に思っていたんですけど、どうして隊長は誰かから料理やお菓子の味を褒められるといっつもはにかみ笑いをするんですか?」
「えっ、はにかみ笑い?」
ますます恥ずかしそうに自分の顔をゴシゴシといじくりまわしている。
「自覚ないんですか? なんか、いっつもご自分が褒められたみたいにはにかんでるじゃないですか」
気色キショいんですけど。という最後の言葉を俺はなんとか飲み込んだ。
「だって嬉しいもん。旨いって言ってもらえりゃ嬉しいよ。へっへっへ」
「笑い方、気色キショっ! そんなに照れるほどですか?」
「自分が作ったものを旨いって言ってもらえると……ギャハハハ、言えねえ! その先は言えねえよオ」
照れながらくねくねと転げまわって爆笑している。
「え、言って下さいよ。気になるじゃないですか」
「ギャハハハハハ」
涙を流しながらヒイヒイと笑い転げている。何がそんなに可笑しいんだ?
「さあ、言え。白状するんだ、かん異度いど
「ギャハハハ……と……取り調べ……ギャハハハハ……」
「ちょっと、落ち着いて下さいよ。これから言う言葉の続きを言って下さい。自分が作ったものを旨いって言ってもらえると、ハイ、続き言って!」
「ギャハハハ……生きててくれてありがとうって言われた気になるな。ギャハハハハ……言っちまった! ギャハハハハ……だからよお、他人の手料理を食うなんてことは、危険なんだよ。変に情念こもってそうで怖いぜ! ギャハハハハ!」
……ふうん。単なるお楽しみの料理かと思っていたが、案外、必死なんだな。必死、か。必死というのも、奇妙な言葉だ。

《八十四、以食為天 終わり / 次話に続く》

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“八十四、以食為天(食をもって天となす)(5)” に2件のコメントがあります

  1. 「食べるのは死なないため。美味しく食べるのは生きててよかったと思うため」って、まさにそのとおりだと思います。

    今回はほのぼの系で終わりましたね(笑)

    シリアル路線に突入!?
    私、『ショッケンひにほゆ』は
    シリアル小説だと思ってます。
    お馬鹿はカモフラージュだと思ってました。
    これ以上シリアルになったら
    どうなるんだろ(汗)
    お馬鹿とシリアルが良いバランスで
    同居してほしいです!

    ハードな展開になったら
    ギャハハハって笑ってみようかな?

    返信
    • おいしい食事は人生を豊かにしますよね。
      会話の内容が重めだったわりにはほのぼの系でした♪
       
      はい、本人たちが真面目にやっているわりにはいつも馬鹿みたいなシリアス小説です。
      表面上のお馬鹿度はあまり変化ないと思いますが、五丈原の戦いはどうしても話が悲しいほうに進んでいきますので……
      季寧くんたちは悲しい現場でもやっぱり馬鹿みたいにしていると思います(笑)
      ぜひ笑いながら読んで下さい!

      返信

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