八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(4)

 ああ、面倒くさいなあ。こんなふうに寝込まれたら、俺のせいみたいじゃないか。面倒くさいが、黄屯長に報告に行く。
「黄屯長、隊長がウツで寝込みました」
「は?」
ほんと、「は?」だよな。俺もそう思う。
「今朝、趣味の料理を作り終わってから突然機嫌が悪くなって、布団に入って寝ちゃったんです。で、ご本人は体調が悪いとか身も心もボロボロだとかおっしゃってまして、今日は急用以外で話しかけないでくれと言われました。黄屯長にはウツで寝込んでますって言っといてと言われました」
「一体なにがあったんだ?」
「よく分からないんですよ」
「季寧が分からなかったら俺はますます分からない」
黄屯長は困惑げに腕組みをしている。う~ん、そうだよねえ。わけ分かんないよね、ほんとに。黄屯長は困惑顔のまま宋屯長のところにトコトコと歩いて行き、話しかけた。
殿とのご乱心」
だれ殿とのって」
「隊長」
「隊長がどうしたの」
「ウツだそうだ」
「なるほど。……無理もない」
「やっぱり水かなぁ……」
黄屯長は俄かにしゅんとした。
「このあいだ悪いことしちゃったからなあ」
「あれは誰のせいでもなかったよ」
そうそう、隊長は水辺に来ると恐慌を来すという特異体質なんです。防ぎようがなかったですよ。たまたま通りかかった劉什長が、ニヤニヤしながら口を挟んだ。
「どうやら痴話ちわげんかが原因らしいですよ」
「痴話げんか? 誰と?」
「張季寧くんと」
宋屯長が俺のほうを向いた。
「どういうことかな?」
「はあ。……よく分からないんですよ」
黄屯長が怖い顔で言った。
「何があったんだ?」

ページ公開日:

“八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(4)” に2件のコメントがあります

  1. 季寧くん、ピンチ?
    隊長さん相手なら上手くやれるかもしれませんが、
    黄屯長が相手だと?

    • 隊長はへそを曲げるだけですが、黄屯長はおっかないですからねぇ。
      でもたぶん黄屯長のほうが隊長より常識人だと思います(笑)

コメントする