八十七、失敗作(1)

 俺は体に日課時限が刻み込まれた精鋭だ。通常、起床の太鼓が鳴る前に目を覚ますことはまずない。しかし今日は、何故だか早く目覚めてしまった。クソッ。
 異常に損した気分で、隊長を探しに行く。きっとまた何かおいしいおめざでも作っているに違いない。早起きのやつあたりでもしながら、横に貼り付いて旨そうな匂いでも嗅ぐことにしようっと。

 様子を見に行くと、案の定、隊長はいつもに似合わぬ真摯しんしな表情で鍋を振っていた。俺はやつあたり全開でつっけんどんに言った。
「どうしていっつもむやみに早起きなんですか?」
「みんなが寝てる間だったら好き勝手に遊んでてもあんま怒られないからな。それに朝にちょっとしたおめざがあったら嬉しいじゃん?」
「で今日は何を作ってるんですか?」
「朝のあいさつは?」
「おはようございます」
「おはようございます」
「でそれ何ですか?」
ドウナオ
「え、なんですかそれ」
閩州びんしゅう焼飯の豆腐どうふ版みたいなもんだ」
「ますます分からない」
「ふわっふわの寄せ豆腐にとろーりアツアツの餡をかける。旨いぜ」
聞いただけで旨そうだ。俺は早起きをしてしまった怒りも忘れて自分のお椀を取りに走った。
 脱兎だっとの如き速さでお椀を持って戻り、待機する。調理は今しも佳境に入ったところ、隊長はもうもうと湯気の立つ鍋を振りながら椀に用意した何かの液体を注ぐ。一瞬にして静まり返る鍋。再び湯気が立ち上り始めた刹那せつな、隊長が叫んだ。
「ああ失敗した! ダマになっちまう! ああ畜生~」
がっくりと膝をつき倒れ込む隊長。落ち込みすぎだろう。
「失敗ですか? 珍しいですね」
「悪いけどちょっと鍋を火からおろしてくれ」
「充分おいしそうですよ。そんなに落ち込まなくてもいいじゃありませんか」
「頼むから早くしてくれ。げる」
「なにもそこまで……えっ、どうしたんですか? もしかしてどっか具合でも悪いんですか?」
倒れ込んだまま苦しげに表情を歪めている。
「いいから早く! 鍋! 炭化するよ!」
「はっ、はい。うわ熱っち!」
「素手で持つ奴があるかよ。そこの布使え。そうそう、おお助かった。ありがとう。手、大丈夫?」
「隊長こそ大丈夫なんですか?」

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“八十七、失敗作(1)” に2件のコメントがあります

  1. 台風、ビーク過ぎて無事で良かったです。
    土砂崩れや河川の氾濫で被害出てる地域もありますね。
    これ以上、被害が大きくならないことを願うばかりです。

    『失敗作』気になるタイトルですね。
    隊長さんが料理を失敗するなんて珍しいですね。
    もしかして季寧くんに甘えるために
    だだこねてるのかな?

    • 今回のお料理は失敗するようですね。
      たしかに隊長はわざと何かを失敗して人に甘えるぐらいのことはやりかねない性格ですね(笑)
      どういう失敗なのか、次回をお楽しみに!

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