八十七、失敗作(4)

「自分で言ったんじゃないですか」
「一回性ね……。おなじ食材をおなじ調理法でおなじ顔ぶれと食べたって、毎回同じ会食になるわけじゃないじゃん? 楽しい時は美味しく食べられるし、誰か機嫌が悪かったりすればまずくなっちゃうよな。食材だって、例えば一口にかぶと言ったって一個一個ぜんぶ味がちがうし、調理法にしたって、食材の顔やその日の天気なんかによっても左右されるだろ。だから、おんなじ名前の料理だって、二つとして同じものはないんだよ。一皿一皿が数多くの出会いの結果出現した奇跡の一品なんじゃないかな。食材そろえて料理して食べる、っていうことをやっていると、その奇跡の瞬間に立ち会えるじゃん? だから俺何か作るたびにワクワクしちゃう。んで誰かと一緒に旨いねーっつって食べられたら、ああ今日も生きててよかったなあって思っちゃうんだよな。いい趣味だと思わねえ?」
「感動的な話ですね」
相槌あいづちの打ち方に気持ちがこもってねえなあ。まあいいけどよ」
「今のが一回性ですか?」
「一回性? なにその難しげな言葉。誰が言ったんだ」
「隊長ですよ」
「そうか俺か。自分でも理解できないような言葉を使うとはよっぽど馬鹿なんだな。一回性? う~ん……食べ物って、いつまでもとっておけるものじゃないじゃん? 人類史上最高傑作の料理が仕上がったとしても、それを百年も千年もとっておけるわけじゃない。美味しいうちに食べちゃっておわり。そういう、跡形も残らないところも好きだ」
「人生みたいですね」
「人生? ……え、人生? ごめん俺ちょっとその論分からない」
「いや、なんにも残らないってとこが」
「なんにも残らないかあ。ふうん、人生ってなんにも残らないのかな」
「いやすみません、テキトーに言ってみただけなんですけど」
「地位も名誉も財産もあの世までは持っていけないけど、旨いもん食った記憶はどこへでも持っていけるんじゃないかな、魂というものがもし滅びないならね。ギャハハハ、朝っぱらから何の話だ? さて、みんなが起きる前に鍋洗っちまおっと」
「そういう雑用は自分やりますけど」
「いいよ、これは趣味だから」
いっつもこう言って手伝いを断るよな。後片付けまで趣味に含まれるのなら、確かに始末の良い趣味には違いない。

《八十七、失敗作 終わり / 次話に続く》

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“八十七、失敗作(4)” に2件のコメントがあります

  1. 隊長さんのセリフ、一流の料理人って感じですね!
    「美味しいうちに食べちゃっておわり」って、スゴく共感します。
    シンプルな考え方だと思います。

    料理は何百年も残りませんし、
    魂が存在してるかわかりませんが
    書物なら後世の人に残せるかなと
    思います。
    ショッケンひにほゆも、
    三国志小説として、
    残っていくのかなと思います。

    • 食材ひとつひとつの状態に合わせて調理しているようですね!
      さんざん手間暇をかけて作っても跡形もなく消えるところが気に入っているようです。
       
      『ショッケンひにほゆ』がデータとして残るかどうかは分かりませんが、こうして毎日読んでいただいた思い出は永遠です、魂というものがもし滅びないのであれば!

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