八十八、牽牛花(あさがお)(2)

 こういう場合、「運が悪かったな」の一言で片付けられる。これはどんな社会にもあることなのかもしれない。小さな子供の世界にだってよくあることだ。例えば、三歳くらいの子供が、お友達の遊んでいるおもちゃを横取りするとか何か邪魔をするとかした場合に、そうされたほうの子が「ダメ!」って強く言って、言われた子が泣きだしたとしたら、たぶん、泣いてる子のほうが悪くても泣かせたほうが大人に怒られる。事情がどうであろうとも、一人が泣いているという厳然たる事実がある以上、泣かせた側が叱られるんだ。
 こういう批判の目にさらされないためにはどうすればいいのか見当もつかない。任務に失敗した者は生還してはいけないのだろうか。そんな馬鹿な。いっつも人材不足って騒いでいるんだから、簡単に死んでしまうよりも戻って来て引き続き働くほうがいいに決まってる。かん異度いどは思想と精神面が危なっかしいという致命的な欠陥を除けば申し分のない指揮官じゃないか。黒い犬でも黄色い犬でもうさぎる犬はいい犬だ。どうしてもっと大事にしないんだろう。
 申し分のない指揮官だからよけいに上げ足とられるのかな。いろいろと心ないことを言ってくるのは、自分自身がイマイチ評価されてなくてモヤモヤしている人ばっかりなのかもしれない。そんな人たちの言うことなんかシカトしていればいいようなもんだけど、やっぱり誰かから悪く言われていると思うと、気分はよくないよな。そんなことでいちいち落ち込んでたらきりがないと思うけど。ほんと精神面の弱い人だ。
 ちなみに、隊長が呉将軍の制止を無視して勝手に上陸して敵をやっつければよかったんじゃないの、と思われるかもしれないが、我が国は徹底した法治主義国家であって、勝手放題やって手柄をバンバンたてるよりも指示された通りに動くことのほうが百倍とうといことになっている。思いつきでガチャガチャッとやっちゃうのはダメで、上からの指令を信頼して自制心を持って行動できるのが理想だ。どうしてもという場合には指示に背いて動くという選択肢もありうるが、それは、上手くいけばおとがめなしで、上手くいかなかったら処罰されるという、ハズレか罰しかない損な掛けだ。隊長はべつに損得を考えて手をこまねいていたわけじゃないと思うけど。たぶん、局地的な利を得るよりも遵法主義を徹底させることのほうが長期的には大切だとでも考えていたんだろう。局地的な利なんてものもほとんどなかったんだ。作戦自体はあの時点ですでに破綻はたんしていたんだから、敵をやっつけてから逃げるか脇目わきめも振らずに逃げるかの違いでしかなかったはずだ。
 まさか呉将軍が戦死するとはな。あの人が無事だったらここまで大事おおごとにはならなかっただろうに。残念だ。

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“八十八、牽牛花(あさがお)(2)” に2件のコメントがあります

  1. 将軍の戦死は、おおごとになってしまうんですね。
    敵に情報が漏れていた時点で、
    現場の人間に責任はないと思います。

    現場の人間は少しでも隙を見せると
    漬け込まれてしまい、
    組織の中で窮屈な思いをするのかなと思います。

    • 将軍を失ったことは大きな損失で、護衛の責任者は隊長だったわけですので……。
      丞相は自分の計略が漏れていたせいだと言いましたが、そんな公式見解と巷の悪口レベルの話とは全然別物ですよね(汗)
      呉将軍が健在なら「いやぁ、あの時は大変だったね~」とでも言ってくれれば話は終わりますが、いないとなると残った人のほうに目が行きます。
       
      隊長は兵卒出身で、今のような地位になるはずもない人間だったのを丞相のえこひいきでここまで来たと人から思われているはずです。
      それでおとなしくしているならまだしも、部隊を最強に鍛え上げて目立ってしまっているし、性格も全然おとなしくありませんし、背が高くて風采もまずまずで堂々と振る舞っています。仕事ができてしまうから人が言いがかりをつけることもできません。
      みんな隙あらば出る杭を打ってやろうと手ぐすね引いていたのではないでしょうか。
      上にいるのは軍功を鼻にかけて傲慢な態度をとっていると人から思われている魏延ですから、魏延への反感とあいまってここぞとばかりにバッシングを受けているんだろうと思います。
      真面目に仕事をやっていてもこんなふうになっちゃうことって、組織にありがちな現象ですよね(泣)
       
      ……こんなコメントで大丈夫だったでしょうか?
      なんだか、人のやっかみによっていじめられるって、ハリー・ポッターぽくてものすごく違和感があるのですが(>_<)

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