九十一、予感(5)

「根回しとか、なんかしたほうがいいんですか?」
こうさんはジタバタしないほうがいいよ。おれ将軍に間違いないように念押ししといてくれるように言っとく。そんな心配より、平北へいほく麾下きかの誇り高い兵隊さん達にどんな先制攻撃をしかけるか策を練っとけば? 最初にガツンとやったほうがいいよ」
「そういうの、器用じゃないんですよ」
「ま、そんな小細工をろうさなくてもこうさんの人柄ならどこに行っても通用するな。中身がちゃんとしてるから大丈夫だ。俺なんかとはモノが違う」
「褒めすぎですよ」
「謙虚すぎるぜ」
確かになあ。隊長はものすごく努力家ではあるけれど、資質としては黄屯長のほうが上かもしれない。いっつも人の顔色みてすぐにウツになっちゃう人よりも、傍若ぼうじゃく無人ぶじんはらわってる人のほうがきっと部隊長には向いている。指揮官なんか、正しい判断ができるかどうかは二の次で、自分が正しいと思うことを押し通す気合いと根性のほうがはるかに大切だからな。張車騎ちょうしゃきかん異度いどに幹部教育を施したことは間違いだったと思う。
 黄屯長の屯は、うちの部隊の中でも目立って出来がいいんだ。意地悪でおっかない人が多いけど、何やっても迅速で、成績がいい。一方、俺のいる屯は部隊の中ではどちらかというとおとなしくてほのぼのとした雰囲気だ。親戚の伯父おじさんみたいなちん屯長や従兄弟いとこのおにいちゃんみたいなよう屯長がまとめてきたためだと思う。面倒くさがりの屯長の屯は、人の目を盗んですぐに手抜きやズルをしようとする隊員と、自分が部隊を支えているんだみたいな正義漢の隊員との両極端に分かれている。屯長によって、各屯それぞれ個性がある。

 翌朝だ。点呼を終えてルンルンと隊長のところへ行く。今日はニラ卵を作ってくれるらしい。昨日はゲテモノ料理だったからな~。まともな料理をしているところを見るとホッとする。
 ちょうど完成したところらしい。ほかほかと湯気を立てる大皿を見上げながら、両足を投げ出して地べたに座っている。
「夏ニラも旨いよなあ」
なんで座っているのだろうか。食事中か書き物をする時以外で座っているところなんか初めて見るのではなかろうか。ちょっと質問してみよう。
「もしかしてまた料理中に具合悪くなったんですか?」
「そうなんだよ。よりによってまた仕上げの時にな。一体誰の仕業しわざだろうな」
「仕業? その場に誰もいないんですよね?」
のろい的な? ひゃっひゃっひゃっ」
「軍中での妄言もうげんは禁止ですよ。起きぬけにいきなり鍋を振るっていう運動がいけないんじゃないですか?」
「そんなのもう十何年も続けてる生活習慣だぜ」

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“九十一、予感(5)” に2件のコメントがあります

  1. 部隊はイロイロな人材で、なりたってるんですね。

    隊長さんのニラ卵、美味しそうですが、体調は大丈夫なんでしょうか?
    今回のタイトルに、何か関係があるんでしょうか?

    • この部隊は動物園みたいにいろんな人がいますよね(笑)
       
      隊長の体調はどうなんでしょう。
      このあいだ体調が悪いと騒いでいた時には 本当の俺は棺桶に片足を突っ込んだ老人だとか還暦までもつ気がしねえだとか言っていましたが(八十五、不如逃跑(3))、一日寝たら治ったようでしたよね。
      今回のこれは数年来のことだそうなのであまり気にしていないのではないでしょうか。
      これについては何者かに呪いをかけられているのではないかと疑っているふしがあります……(四十二、麦刈り(11))
      けっこうスピリチュアルなことを言う人ですよね。
      今回のタイトルもスピリチュアル系ですので、お楽しみに(?)

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