九十二、運命の地(2)

「どうしたの? なんでここにいんの?」
「寄るな小わっぱ。殺すぞ」
おおこわ
「なんでいっつもそんな喧嘩腰なの?」
吾輩わがはい雑魚ざこの相手はしないのだ」
「あっそ」
偏屈ジジイめ。
 李隊長、戻って来てるのかな。ああ寒。早く冬物が支給されないかな~。お、隊長発見。なんでそんなとこで一方を見つめて金縛りにあったみたいに立っているのかな。幽霊でも見たのかな? そーっと回り込んで、隊長の視線の先に目をやる。……李隊長の幽霊が立っている。
 ああ気の毒に。李隊長、戦死したんだな。どんな現場で何やってる時に亡くなったんだか知らないけどさ。血の気の引いた顔で恐ろしいものでも見たような表情をしているじゃん。さっき会った馬は幽霊っぽくなかったけどな。空馬からうまあるじの幽霊を乗っけて戻ってきたのだろうか。隊長が意を決したように、ぎくしゃくと李隊長に向かって歩いて行った。
「…………」
隊長、黙ってないでなんか言ってあげなよ。二尺くらいの間隔で向かい合ったまま、二人ともものも言わずに立っている。不意に、李隊長が口を開いた。
「実はね、」
こう言ったきり、黙りこくっている。遠くで兵隊達がガヤガヤとくっちゃべっている声ばかりが耳につく。ガッシャーン、ガヤガヤ。って誰だよ、なんか落っことした奴。気をつけろ。
「怖くなって、逃げてきちゃった」
「よかった」
なにがあったか知らないが、隊長はとりあえず何も聞かずに「よかった」とだけ言った。と同時に李隊長を抱擁した。
 李隊長はしゃくりあげて泣いている。何があったか知らないが。ああ寒。星が綺麗だ。だいぶ長いことそうしていたと思う。兵士達の話し声も聞こえなくなった。もうじき就寝の時刻だ。
あめちゃんめませんか?」
飴のこと、飴ちゃんって呼ぶのかよ。李隊長はごしごしと顔をぬぐいながら飴を受け取り口に入れる。しばし無言。嗚咽おえつの音も治まってきた。と思っていたら
「ゲッ、飴飲んじゃった。痛い! 食道が痛いよ!」
と騒ぎだした。
「あのさあ、嗚咽おえつしてる時に飴って、ダメだよ。危険すぎる」
「すみません」
李隊長、べつに幽霊になっちゃったわけじゃないんですね。なんか怖い目に遭ったからひどい顔をしていただけか。

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“九十二、運命の地(2)” に2件のコメントがあります

  1. 季寧くん、やっぱり馬と話せるんですね。(汗)

    李隊長、どうしちゃったんでしょうか?
    怖い目にあった?
    逃げて来ちゃった?

    逃亡?撤退?
    逃亡だと厳しく罰せられますよね?

    乱視!!(汗)
    ネットを調べたら、思いあたることばかりでした。♪

    劉備のお母さんの
    『今の生活に甘んじるな』ですか?
    スマホは便利なんで、だらだら見ちゃいますよね。
    SNSを気軽に利用できるので、
    三国志好きな人たちと話が弾めば
    本では味わえない貴重な時間を過ごすこともできるのかなと思います。

    まるクルルさんは本を読んでインプットしたことを
    スマホを利用で小説としてアウトプットしてて、時間を上手くコントロールできてるのかなと思います

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    • 馬との会話は季寧くんが勝手にそう思っているだけですが(笑)
      意地悪馬なら実際「寄るな小わっぱ。殺すぞ」「吾輩は雑魚は相手にしないのだ」くらいは考えているかもしれませんね。
       
      撤退だとすると他の将兵も一緒でしょうから、一人で来たということは逃亡ではないでしょうか。
      ありえない話ですね……
       
      Twitterで三国志好きさんとお話しできるのは楽しいですが、たいして興味のないツイートもタイムラインに流れてきて、そういうものを読んでいると時間を無駄遣いしている気分になります。
      あと、自分でも心底どうでもいいツイートを垂れ流しているので、ちょっと公害かなと思っています。
      思いついたことをツイートするのは排泄行為みたいで気持ちがいいですが、少し自制心を身につけたいです。
      小説はパソコンで打っているので、スマホをいじる時間を減らしてパソコン作業の時間に回したいです(>_<)

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