九十四、遺言(6)

 のんびり観察している場合ではない。周りにいる連中が騒ぎを聞きつけ駆け寄ってくる。えんたいらんだけの中でやってるぶんには事を穏便に済ませる方法もあるだろうが、大勢集まってきて衆人環視の中でやらかしてしまえば処罰を免れない。大ごとになる前に取り押さえなければ。しかしあの最強の戦士を一体どうやって取り押さえればいいのだろう? 考える暇もなく叔允しゅくいんと俺は全速力で隊長めがけて突進した。
「指示があるまで動くなっつったろバッキャロー!」
罵声とともに、伝説の壇中だんちゅう打ちで叔允しゅくいんが飛ぶ。こりゃあ今日も一丈飛びそうだ。と思っている間に隊長がこちらを向き、
「死ね!」
という声を聞いたのを最後に、俺の記憶は途切れている。
 そういえば、以前誰かが隊長のことを「料理と冒険をこよなく愛するいつでも沸騰寸前の男」と評したら、隊長が「俺は沸騰なんかしねえよ。噴火するんだ」と訂正し、「危ねえと思った時は可能な限り遠くまで避難するんだぜ」と注意したことがあった。今日、隊長は噴火したんだ。注意点を忘れて接近したのは間違いだった。

 目を覚ますと、李叔遜りしゅくそんが俺の顔をのぞき込んでいた。
「起きた? どうよ」
「えーっとね、最悪。頭痛、吐き気。っつうか生きてんのか俺?」
「死亡を示す兆候は見られないぜ」
「あ~、マジ気持ち悪い。なんだこれ。畜生、野郎ガッツリ急所狙いやがって。殺す気か! っつうか隊長死刑になった?」
「なんの話だ?」
「隊長が将軍をぶちのめしてただろ?」
「そんな事実はなかった」
「はあ? だって見たろ?」
「将軍が白と言えば黒いカラスも白になるじゃん」
「ふうん、なるほど。そういうこと」
ふらつきながら立ち上がる。
「おまえ今日休みだってよ。ゆっくりしとけば?」
「いや、韓英の野郎をとっちめてくる。あの人殺しめ」
人殺しか。人殺しと言えば、軍人なんて全員そうなのかもしれない。

ページ公開日:

“九十四、遺言(6)” に2件のコメントがあります

  1. 将軍が大人の対応で話を納めたんですね。

    前回を読んだ瞬間、
    「修羅場」の単語が頭に浮かびました。
    激しい争いごとが起きてるってニュアンスだったので、
    インド神話の話になってしまうと
    なんか緊張してしまいます(・・;)
    ただ、今回のガチバトルは
    兵士たちの間で神話になっちゃうかもですね。

    今回、4:44は狙ってました。
    毎日4:44にコメントを返信しようと
    考えてた時もあったんですが
    文章をまとめるだけで
    1時間以上かかる時もあり
    時間までに間に合わないことが
    多かったので早々に断念しました。
    今回は「修羅場」の一言だったので、時間をチェックしてタイミングを合わせました。

    返信
    • 将軍から大人しくしていろと言われたのに反抗して軍中で暴れれば、普通に考えれば死刑です。
      軍紀を乱しているので。
      でも将軍が「乱闘騒ぎなんかなかった」と言えば、将軍の管理下から外に話が漏れない限りそういうことになるようですね。
       
      魏延と隊長は阿修羅や帝釈天とは全然違いますが、いずれもなんだか強そうというイメージはありますね。
      兵士たちの心象風景としては似たような印象かもしれません!
       
      昨日は狙いすましての4:44だったんですね。
      ちょっと通信に時間がかかってずれたり、何かの拍子に画面に触ってしまって早く送信してしまったりしそうで、難しそうですね!
      そんな趣向を凝らしていらっしゃったとは(^^)
      いつも暖かいコメントありがとうございます!

      返信

コメントする