九十四、遺言(7)

 隊長の部屋に到る。隊長は扉の傍にかがみこんでちまちまと蝶番ちょうつがいを付け直しているところだった。
「なんでそんなちまちました作業を自分でやってるんですか?」
「自分で壊したからな。っていうか実際に破ったのは将軍か? ひゃっひゃっひゃっ」
「なに面白そうに笑ってんですか。馬鹿じゃないですか?」
「はい馬鹿です。ごめんなさい」
「謝って済む問題じゃないですよ。なんでわざわざ急所攻撃するんですか? 殺す気ですか?」
「俺ちゃんと『死ね』って声かけただろ? 俺が死ねって言うのは死ぬなって意味だ」
「そんなもん通用しますか。一歩間違ったらホント死にますよ。死んだらどうしてくれるんですか?」
「どうしようもないね。死んだら取り返しがつかないよ。ああよかった。生きててくれてありがとう。ギャハハハハ。でもよお、ありゃあお前が俺の指示に従わないで勝手に動いたのが悪いんだぜ。あそこでお前をブチ殺しても犯罪にはならねえからな」
叔允しゅくいんはどうなりました?」
「あいつはピンピンしてる。壇中だんちゅうのほうが外すの簡単だな。っつうか決めるほうが難しいか。あの急所は面白えよ。自分の殺傷能力を証明しつつ派手にぶっ飛ばせるし、瞬時に戦闘能力を奪えるうえに、ほんの一工夫で殺すか殺さないか調整できる」
「まさか今日の乱闘は見世物だったんですか?」
「おっと、今日は乱闘騒ぎなんかなかったぜ。夢でも見た?」
「じゃあなんでそこ壊れてるんですか」
「幻だろう。もしこれが幻じゃなけりゃあ、今頃俺は死刑になってるな。季寧はいま幽霊と会話してるってわけだ」
「あ~気持ち悪い。マジ吐きそう。超頭痛いんですけど」
「そこで寝とけば?」
「え~? この異度くんの匂いがする布団でですかあ? オエ。よけい具合悪くなりそう」
「本日は申し訳ありませんでした。いろいろと」
「あとから謝っても遅いんですよ。ちゃんとあらかじめ気を付けて行動して下さい」
「季寧を打つ前はいろいろ考えたぜ。もし障害が残ったらどうしようかな、とか。頭部は難しいよ」
「なにもわざわざ頭を狙わなくたって、壇中でよかったじゃないですか」
「季寧、根性あるからなあ。壇中で呼吸を止めてもすぐ復活してかかってきそうでやっかいだ。頭をやってスコンとおねんねしてもらうしかねえと思った。すぐに目覚めてかかってきたらよけいやっかいだけどな。そうだ、季寧、当分運動禁止な。もし喧嘩をふっかけられても決して暴れるなよ。どうしてもって時は俺が代わりに買うから」
「誰も喧嘩ふっかけてなんかきませんし、隊長が喧嘩買うほうがよっぽどやっかいですよ。兵隊を運動禁止なんて状態に陥れたらダメじゃないですか」

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“九十四、遺言(7)” に2件のコメントがあります

  1. 隊長さんの優しさなんですかね?
    半端なことしたら、かえって季寧くんを大ケガさせてしまうかもしれないから、確実に気を失うよう攻撃したんですね。

    隊長さんは乱闘騒ぎがなかったことを素直に受け入れているんですね。
    将軍の対応に納得したんでしょうか?

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    • 隊長は優しいんだかひどいんだか、よく分かりませんね(笑)
      とにかく季寧くんの動きを止めたかったようですが、最初から暴れないようにするのが一番いいですよね……。
       
      将軍と拳で語り合って(?)何か納得したのかどうか、これから季寧くんに聞き出してもらいましょう!

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