九十五、整理(1)

 李隊長が悄然しょうぜんたたずんでいる。ほとんどしなびて茶色くなった朝顔に色あせた小さな花がちらほらと咲いているのを眺めながらはらはらと涙を落としている。
「あのお、種たくさん獲れましたけど、よかったらお持ちになりませんか?」
「ありがとう。でもオレもらえないよ。季寧くん、大事に持ち歩いといて来年の初夏にいてあげて。その頃キミがどこで何やってるか知らないけどさ」
「どこか見知らぬ土地にこの朝顔の子孫を残すのも楽しいかもしれませんね」
李隊長は黙ってうなずいた。俺、花になんか大して関心ないんだけどな。
「異度くんはまたどっかに行っちゃったのかい?」
「はあ。陣地の中のどこかにはいるはずなんですけど」
「なるべくここにいるように言っといてよ」
「はい。戻ったら李隊長にお知らせしましょうか?」
「ううん。オレが来たくなったらまた勝手に来るから気にしないで」
「はあ」
李隊長はカサカサになった朝顔の葉をもてあそびながら言った。
「もっと頻繁ひんぱんに水やりしに来ればよかったなあ」
「あの、これが枯れたみたいになってるのは別に水が足りなかったせいじゃありませんよ?」
「うん。時期が来たら枯れるものだよね。種を残して。朝顔らしい生涯を全うしたと言えるだろうね。羨ましいよ」
「ご結婚なさらないんですか?」
「誰と?」
「えっと、女の人と」
李隊長は当惑したように指でもしゃもしゃと顎鬚あごひげもてあそんだ。
「……千金せんきんが死んじゃったんだ」
「は?」
一瞬なんの話かと思った。千金は李隊長の馬の名前だ。
「昨日までは元気だったんだけどね。分からないものだね」
なるほど、それでしょんぼりしてたんですね。どう言って慰めればいいのか分からないけどさ。
「異度くんのクロは元気にしてる?」
「はい。いつも通りです」
「あの子は物怖じしない性格だから多少のことがあってもへこたれないのかもしれないね」
「それ隊長のことですか?」
「違うよ。クロのこと」
「ああなるほど。そうですね」
「異度くんは相変わらず荒れているみたいだね」
「はあ」
もうさっさと成都に行っちゃって欲しいです。という言葉を俺はなんとか飲み込んだ。
「あのお、李隊長はご存知なんですよね? 韓隊長がどうして荒れてるか」
「想像はつくよ。考えたくもないけどね」
「一体何があったんですか?」
李隊長は溜め息をついてもう一度朝顔の小さな花を眺めると、何も言わずについっと帰って行った。

ページ公開日:

“九十五、整理(1)” に2件のコメントがあります

  1. 李隊長、元気みたいですね。
    良かったです。
    千金死んじゃったんですね。
    炎から逃げる時に無理しちゃったんですかね。

    朝顔が枯れる。。。
    季節がうつり変わってる?
    いよいよXデーが近づいてる?

    私も上手にタップできるようになりたいです。
    タップ操作って、実は不便じゃないかと思うことがあります。

    隊長さんは
    汎用人型決戦兵器 人造人間
    の可能性あるんじゃないかと思います(笑)

    返信
    • 千金も火傷したでしょうし、馬は繊細ですから精神的ショックもあったかもしれませんね。
      クロは本当に大丈夫なのか気になるところです。
       
      朝顔が枯れたらもう第五次北伐も終盤です。
      『ショッケンひにほゆ』にほとんど登場しなかった丞相がもうじき退場ですね……
       
      タップ操作はいいところもあれば不便なところもありますね。
      スマホのカメラは画面を見ながら操作しなければならないのがまどろっこしいので、ここぞという時は別途デジカメを使用しています。
      私が使っているデジカメはボタンとダイヤルで手の感覚だけで操作できるので、目は被写体に集中することができ、使い勝手がいいです。
       
      隊長は汎用人型決戦兵器 人造人間ですか(笑)
      たしかに、シンクロしなければ起動しないところや時々暴走するところはそれっぽいですね。
      丞相が科学力をつぎ込んで作ったに違いありません!

      返信

コメントする