九十七、秋風五丈原の怪(7)

 なんだろうな。まあ、何かおかしいが、いろいろあったから、多少おかしい様子になってしまうのも当たり前なのかもしれない。俺はさして気にも留めず、とういか気にしてもしかたないので、自分の食事に集中することにして椀の中に顔を突っ込んだ。モグモグ。ああおいしい。ピリ辛の鶏肉、おいしいじゃん。隊長め、王什長にあげないで俺にくれればよかったのに。
 周りのみんなが何かに驚いた様子で腰を浮かせて立ち上がりかける。何? 俺もそっちを向く。隊長が地べたにうずくまっている。またかよ。なんか、隊長のこういう姿をけっこうちょくちょく見る気がする。いつも元気なくせに。なんだよもう面倒くせえな。
 近寄ってみる。隊長は食べた物をもどしてしまったようだ。
「ああ……」
と言って落ち込んでいる。食へのこだわりが異常に強い隊長にとっては痛恨事なのかもしれないな。
「体調悪かったんですよね? 誰にでもこういうことありますよ。自分が綺麗さっぱりお掃除して全てなかったことにしてあげますからそんなに落ち込まないで下さいよ」
「痛え」
「ぽんぽん痛いんですか?」
「もうだめだ。お医者さん呼んで」
「え、呼んでって、ここに呼ぶんですか?」
「早くして。死んじゃう」
こう言いながら倒れ込んだ。
「さっきまで菊花茶淹れるなんて言ってルンルン歩いてたのに、急に死ぬところまでいきますかね?」
こう言いつつも冗談のようにも見えないので、みんなで大騒ぎしながら大慌てでお医者さんを呼ぶ。ほんと人騒がせだよ。倒れるところまで我慢してないで、ちょっとおかしいなと思ったら自分で早めにお医者さんのところに行って下さい。お願いします。

 隊長室の中だ。うちの部隊の気合いの入った体育会系軍医が隊長をひっくり返したり表に戻したりしながら入念に触診を行っている。脈拍を測るだけじゃなくて、指先でどっかトントンと叩いたりとか。叩くことで内側の状態が分かるのかな。隊長がとりたててやせ我慢をするでもなく痛えとか辛えとかひいひい言っているのには頓着なく、納得いくまで診察をすると、医師はこともなげにこう言った。
「絶対安静。最低五日」
隊長がへらへら顔でおずおずと尋ねる。
「え~っと、最低五日、ってことは、伸びる可能性もあるんですか?」
「そ」
「絶対安静っていうのは、どんなふうにしてればいいんですか?」
隊長が痛がりながらへらへらしながら尋ねると、医師は冷然とこう言った。
「黙ってじっと寝てるんですよ。ぺちゃくちゃおしゃべりもせず。立ち歩かず。よく眠れるお薬出しときますからね。あと、しばらく絶食して下さい」
「え~」
隊長は身をよじって悲しんだ。
「状態が落ち着いてきたら食べられますからとにかく今はじっとして」
「…………」
隊長は悲しみのあまりぐったりとして布団に顔を埋めた。医師は舌打ちをした。
「いちいち動揺してないで気楽に横になってて下さいよ。それが回復への一番の近道ですからね」

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“九十七、秋風五丈原の怪(7)” に2件のコメントがあります

  1. 絶対安静 最低五日…
    ヤバイですね。
    葫蘆谷のあと、火傷を負いながらも
    走りまわってたので、無理してないか心配してましたが(汗)
    大人しくしてて欲しいですね。

    蜂蜜は食パンに塗る以外で食べる方法を知らなかったので、
    今回、炭酸水と黒酢で割って飲む方法をマスターできて良かったです。
    蜂蜜のためとは言え、
    食パンは炭水化物の取りすぎが気になってましたし、
    だからといって蜂蜜だけ舐めるのも、子供っぽくって大人としてどうなんだろって思ってました。

    少し前までは夏の暑さは気にならなかったんですが、
    温暖化の影響か、最近の暑さは
    殺人レベルなので、素直にエアコンに頼ってます(笑)

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  2. 以前自分で「若い頃の無理がたたって内臓ガタガタになってそうだぜ。還暦までもつ気がしねえ」と言っていましたね(八十五、不如逃跑(にげるにしかず)(3))
    大事にしないといけませんね(´θ`llll)
     
    蜂蜜は肉料理の時にみりんみたいな感覚で使ってもおいしいですよ♪
    私は焼き菓子のフロランタンを作る時に、上のアーモンドスライスに絡めたキャラメル部分を作るのに使うので、フロランタンを食べたくなったら蜂蜜を買い、余ったものをその後少しずつ消費して過ごしています。
    それで年に二本くらい買っていましたが、最近は黒酢ドリンクに使うので購入頻度が高くなるかもしれません。
     
    料理に蜜と言えば、曹丕は蜀では肉に蜜をかけるという話を孟達から聞いて、その話を詔で群臣に伝えたそうです。
    曹丕は食への関心が高かったようですね( ´艸`)
     
    「全三国文」にある該当部分を抜き出しておきます↓
     
    新城孟太守道:蜀豬肫雞鶩,味皆淡,故蜀人作食,喜著飴蜜,以助味也。〈《書鈔》一百四十七,《御覽》八百五十七
     
    《 》内はこの記述がある本の書名です。
    蜀のお肉は味が淡白だから飴や蜜でコクを増して食べることを好んだという話みたいです (。・ω・。)

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